やまそうの音ゲー紀行

音ゲーに関する幅広い話題について書きます(上達論多め)

【音ゲー】"良い譜面"ってどういう事?

どうも、やまそうです。

 

今回は「音ゲーにおける『良い譜面』とは何か?」という事について考えてみます。

 

前提として、まずは「譜面の感想というのは本来主観的なものである」という事を押さえておく必要があります。特定の譜面がある人には良譜面でも、別の人にとってはク〇譜面である、というのはよくある事ですよね。

 

諸説ある譜面の例

しかし、「こういう配置を置くべき」という事に正解はなくても「こういう配置は置くべきではない」という事に関してはある程度客観性のある正解があるのではないでしょうか。*1

 

そこで今回は色んな音ゲーにおける事例を紹介しながら「どういう配置が良くないのか」について考える事で、逆説的に良い譜面について考えてみようという訳ですね。

 

 

 

 

①物理的に厳しい譜面(無理押し含む)

一般に、物理的にノーツの入力が厳しい譜面はあまり好まれない傾向にあります。これには単に速すぎる場合、筐体への負荷が大きくノーツを入力するのが厳しい場合(いわゆる"メンテゲー")、物理的に腕の本数が足らない場合など様々なケースが考えられます。

腕の本数が足りない譜面の例(Cheer Train(DPA))

では何故これらの譜面は嫌われる傾向にあるのでしょうか?

個人的な意見ですが、これらの配置は「無理な事が分かり切っており、改善の余地がほぼないから」嫌われがちなのだと思います。

 

確かに速い交互トリル、片手トリルなどは指の動かし方などを工夫する事でより速く叩けるようになるかもしれません。しかし、人間の指が動く速度には当たり前ですが上限があります。*2そのため、ある速さを超えると「こんなの追いつく訳ないじゃん」となってしまう訳ですね。無理押しに至っては無理だから"無理押し"という名前な訳であって、尚更です。*3

人間にBPM188の32分トリルは無理です(ジオメトリック∮ティーパーティー(Hyper))

 

では無理押しを置かないためにはどうすれば良いのでしょうか?これはひとえに「譜面レギュレーションの整備」という所に尽きると思います。

 

ここでボルテの例を見てみましょう。現代のボルテでは「鍵盤とつまみを同時に操作する配置は原則禁止」「およそBPM150以上において鍵盤からつまみへの16分以下の猶予しかない移行は原則禁止」となっています。しかし、初期の譜面では下の譜面画像のように現代では無理押しとされる配置が一定数存在します。このように、譜面のレギュレーションが途中で変更される事もあります。

有名な無理押しです(PULSE LASER(EXH))

また速いトリルについても言及するならば、「フィジカルを要求する配置の難易度はBPMに比例する訳ではない」という事は覚えておくと良いかもしれません。BPM200の交互がBPM250の交互になるのと、BPM250の交互がBPM300の交互になるのとでは後者の方が難易度上昇が大きいという事ですね。

 

たまに創作音ゲーで自分の地力を超える難易度の譜面を作る際に低速で再生して確認する方を見かけますが、これらの配置を置く時には変な所に激難配置がある譜面にならないように気を付けましょう……

 

 

②音取りが正しいかどうか?

音ゲーを楽しむための重要な要素の1つとして、「演奏感」があります。そのため、どの音をノーツとして取るか、いわゆる「音取り」は譜面の質を決める重要な要素の1つであると言えます。ましてや音取りが間違っていると演奏感が損なわれて楽しくない、という事が起こります。

 

有名な音取りミス*4の事例として、DDR EXTREME*5で登場した「bag」という曲があります。

老人会で、すみません

この曲のEXPERT譜面はほとんどが3連符のリズムで構成されているのですが、当時のDDRは「2の倍数系のリズムしか置けない」という仕様があったため、3連符を32分や64分で無理やり代用した結果、音が合っていません……

 

その後修正されるのですが、現在でもCHALLENGE譜面にて修正前のEXPERT譜面を遊ぶ事ができます。しかもMFC*6達成者がいるらしいです。なんで???

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では「正しい音取りをしさえすれば良いのか?」となりますが、そういう訳ではありません。何故なら、音を全て取ると譜面密度が高くなりすぎてしまう場合、「何の音を演奏しているか分からない」という状態になりかねないからです。

 

1つだけ(決して悪い譜面ではないのですが)例を見てみましょう。SDVXのCalamity Tempest(MXM)です。この楽曲はxiさんとBlackYさんの合作*7で全体的にピアノが暴れまわるフレーズが特徴的です。

 

そのため譜面もピアノの音を取りまくった鍵盤マシマシ構成になっているのですが、「演奏感があって良い」という意見がある一方で「何の音を叩いているか分からない」「音ゲーではなくて実質モグラ叩き」という意見も見られました。*8曲が曲なのでこのような譜面構成になる必然性はあるのですが、ここまで難しい譜面になると意見が分かれる所かもしれませんね~

ここら辺がめちゃくちゃ難しい

一方で、一部の音ゲーでは「演奏感が全くなくても許される場合」があります。一つの例としてオフィシャルではない*9音ゲーにありがちな、演奏感よりも練習になる譜面である事が求められている場合です。

 

例えばBMSにはディレイ譜面という概念があります。これは「元の音源を二重で鳴らす事で、ノーツの水増し*10を行ったもの」です。ちょっと言葉だと説明し辛いので実際に見てみましょう。

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↑の動画では意識しないと気づきにくいかもしれませんが、二重で音が鳴っていますね。ちなみにですが、ディレイ譜面には「難易度を上げるために二重で音が鳴っているのがシュールで面白い」という効果もあります。*11

 

 

 

③配置の必然性

よく音ゲーマーがある譜面を批判する際によく言われる事ですね。「(配置がトリッキーすぎて)その配置をわざわざ置く必要なくない?」「(配置が無個性すぎて)他の曲でその配置を置いても違いが分からなくない?」というやつですね。

 

これらの批判は「必然性」という言葉に置き換えられます。尖った配置を置くためにはそれだけ尖った曲である必要がありますし、正統派の曲にトリッキーな譜面がついていると「あれ?」となってしまう訳ですね。まぁ尖った曲、正統派の曲というのがかなり抽象的な概念なのですが……

 

例としてプロジェクトセカイにおける小粒ノーツ*12の「必然性」について考えてみましょう。そもそも小粒自体が抜けやすいので嫌われがちではあるのですが、「アウトロでだんだん小さくなっていく音を取りたい」「ピアノの音が鳴っていて演奏感を出したい」という場合であれば小粒で取る必然性があると言えます。

演奏感を出した結果……(L'épisode(MAS))

一方で何を意図して置いたか全く分からず、ただ難易度を上げるために置かれた譜面、すなわち「必然性のない譜面」に関しては否定的な意見が多いように感じます。

 

少し前のプロセカCSでお披露目されたセツナトリップ(MAS)なんかはその最たる例で、小粒ノーツにも音取りにも必然性がなく、音ゲーとしての公式大会をあれだけ大掛かりにやるのであれば「あの譜面を決勝で初お披露目する」という事の意味をもう少し真剣に考えてほしいなぁと思います。

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ところで「必然性」のある譜面といえば、「再現譜面」も挙げられますね。これは特にゲキチュウマイにおいてオリジナル曲を移植する際によく用いられる手法で、このような譜面では「いかにして移植先で移植元の手の動きを再現するか」というのが重要になります。

CHUNITHMとオンゲキのDon't Fight The Music(MAS)のラスト。きちんと再現されています

再現譜面には前述した「必然性」はあるのですが、往々にして「元ネタを知らないから不自然な動きを強要されてしまって面白くない」という事が起こりがちです。そういう事例を見ると、譜面再現と移植先のゲーム性を両立させるのは難しいんだなぁと感じるばかり……

 

ここで、マニアックな再現譜面でしかも成功している例を1つ。オンゲキに収録されているMUSIC PЯAYERですが、元ネタはdaja77氏による「偽音ゲーシリーズ」*13になっています。もちろん完全にコピペした譜面ではないので一見分かりにくいですが、弾の配置、アウトロの壁連打、ラストの全押し→レバー操作してベル回収など類似点が多数ある事に気付くはずです。

 

この譜面の凄い所は元ネタを知らない人がプレーしてもそこまで不自然に思わないであろう点です。maimaiとCHUNITHMに関して自分はあまり明るくないのですが、オンゲキのNOTES DESIGNER達に関しては「元ネタのエッセンスを抽出した上で、『遊べるレベルの』譜面に落とし込む事」が本当に上手いと思います。

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④「誘導」が丁寧か?

音ゲーの譜面には「誘導」という概念があります。これはざっくり説明すると、「特殊な押し方をさせたい時に、その手前でいわば『助走』となる配置を置く事」を指します。とは言ってもこの説明だとさっぱりだと思いますので、運指誘導の例を説明します。まずは下の画像をご覧ください。

怪盗Fの台本~消えたダイヤの謎~(MXM)

62小節の後半にあるB+RとC+Dのトリルですが、鍵盤でこの配置だけ来たらBを左で、C、D、Rを右手で取る方が多いでしょう。しかし、この譜面では62小節の頭に右手で赤つまみを回す必要があるので、B+Rを左手で取らざるを得ません。すると、C+Dは自然と右手で取る事になり、見た目は非常に複雑な配置なのに実は交互で取る事ができてしまう訳です!

 

このように、誘導の考え方はSDVXやオンゲキのように押し方の自由度が高い音ゲーにおいてはとても重要です。そうでないと「一見しただけではどういう動きをすれば良いかさっぱり分からない」という事になりかねません。*14

 

また、運指誘導に関連して「トリッキーな配置の出し方」の話をしましょう。オンゲキでは「新しい配置を出す際、置きたい配置の前半部分でそれを簡単にした配置を置いてプレイヤーに心の準備をさせる」という作譜テクニックがあります。*15

 

例としてElusive Emotes(MAS)を挙げてみます。これは「判定されるレーン上にノーツが置かれていない」*16という事を利用して難易度を上げた譜面です。では、前半と後半で譜面を見比べてみましょう。

前半

後半

前半では自機を中央に置いた状態でレーンがどんどん狭まっていき、プレイヤーに「どうやら普通の譜面ではないらしいぞ」という事を意識させます。そして後半でびっくり配置が飛んでくる訳ですね。このような置き方も、譜面全体の構成としての「誘導」である、と言う事ができると思います。*17

 

 

 

おわりに

ここまで音ゲー雑学っぽい話も交えながら、音ゲーの「良い譜面」に求められる要素についての話をしてきました。もちろん、ある譜面を良譜面たらしめる要素はこれらだけでなく、音ゲーによっても良譜面に求められる要素は異なります。*18

 

しかし今回の記事で語ってきた事に関して、これまで主観的とされてきた音ゲーの譜面観の中で比較的多くの音ゲーマーに同意してもらえるような、客観的部分を取り出せたのではないでしょうか。今回の記事を読んだ方が、音ゲーの譜面について考えるきっかけにしてくだされば幸いです。

 

それでは~

 

 

 

 

*1:もし音ゲーの譜面が「何でもアリ」だとするならば、特定の譜面が酷評されるという事は起こり得ないはずです

*2:ちなみにボルテにおいて上位のプレイヤーでも速い連打を苦手とする人がいるのを見ると、シングルストロークや縦連の速度の上限、というのは先天的なものがあるのかもしれません

*3:特にpop'n musicやiidx(DP)などでは無理押しを手を広げたり判定幅を利用してスライドで強引に処理する技術などがありますが、今回は置いておきます

*4:むしろ仕様と言うべきかも

*5:2002年なので20年以上前らしい

*6:MARVELOUS FULL COMBOの略。いわゆる理論値

*7:アーティスト名義のDiceros Bicornisは「クロサイ」の学名なのでBlackY+xiという訳ですね

*8:ちなみに自分は「高密度鍵盤を叩く事が音ゲーの醍醐味だ」と思っている節があるので、この譜面は19の中でもトップクラスに好きだしエフェクターのSALMON GRAPHY先生も1番好きなエフェクターなのですが……

*9:企業などが運営母体となっていない

*10:高密度譜面が特徴的なBMSにおいても無音ノーツを大量に置く事はあまり推奨されていない印象です

*11:豆知識ですが、Stella難易度表にも収録されているDRAGONLADYのディレイ差分である「DRAGONDERAY」はあのLeaFさんが譜面を制作しています

*12:幅がめちゃくちゃ狭いノーツ

*13:音ゲー曲をファミコン音源にしてネタ譜面に仕上げたシリーズ。停止や加速は当たり前、パネルの数がいきなり3倍になったりもします

*14:実際オンゲキの譜面部会報では「オンゲキはかなり危ういゲーム性の上に成り立っている」(≒誘導が丁寧でないと音ゲーとして成立しない)という事が言及されています

*15:譜面部会報のどこかで言ってた気がするんですが具体的にどこかは忘れました

*16:前提として、オンゲキでは自機がレーン上に存在している状態で鍵盤を叩かないと、全てMISSになります

*17:ちなみに、誘導は丁寧でも初見プレーではまず不可能な譜面なので悪しからず

*18:例えば元となる楽器が存在するようなノスタルジアやGITADORAは演奏感が非常に重要な一方で、ゲキチュウマイでは演奏感を追求したからといって必ずしも良い譜面にはなりません